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この世の全てを飲み込まんとする織田軍が瀬田川に向かって突撃を開始した。この光秀の首を挙げんと。
「光秀様、織田軍が動きました」
「見ればわかるさ、秀満」
「務めなので。まぁ、一応」
轟く雄叫びは光秀の胸にも響き、その数多の意志が一体となる姿に命を狙われる側にも関わらず恐怖よりも高揚感すら覚える。それは光秀のみならず秀満も同じのようであり、謀叛決行前の迷いは既になく余裕すら窺えた。
明智兵は皆、自負がある。信長を殺したという絶対的な誇りという自負があるからこそ負けるわけにはいかないのだ。
「織田信忠……信長亡き後も崩れる事なく立て直す手腕は御見事なり」
信長を無くした織田家は音をたてて崩壊するものだと思っていた。しかしそれを継ぎし者が防ぐ。
素晴らしい。心の底から尊敬の念を捧げるに値する。
そんな者たちがこの日ノ本を導くのであれば決して謀叛など興すことはなかった。だがしかし、そんな事はある筈がない。
一族が頂に座する政は必ずや頭打ちの事態が陥る。必ずや暗愚無能の類いが上に立つ日が来る。
如何に家臣が優秀であろうとも暗愚はそれらを使えぬままに潰す。故に更に国は乱れ腐蝕は内から広がるであろう。
そしてこの弊害は民に押し付けられ、彼らは何も理解出来ぬまま死に逝く事になる。
「だからこそ、この地に果ててもらいます。光秀の手によって」
幾百年、幾千年に渡って日ノ本に巣食いし呪縛を打ち払うべく采配を振り落とす。
「諸君ッ!!手にせよッ……天下をッッ!!」
「御意ぃにッッ!!!!」
迫る織田軍は迎え討つ明智軍に比べ数が大きく勝っている。
しかし決して退かない、決して怯まない。己の意思を持ち光秀の号令に応じた。
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