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織田家臣の丹羽長秀は大きく息を吸い上げる。
「蒲生殿の倅は何やっとんじゃァァァッ!!」
そして叫んだ。
氏郷が一番槍を挙げた報は織田本陣の信忠の元にも届いており、本陣を警護に就いていた長秀は頭を抱えて右へ左へと振り子のように首を動かす。
先陣の将が先頭を駆けるなど、見栄えは良くとも討ち取られたら先陣全体が総崩れの恐れがあり頭が痛くなってしまう。
「いや、氏郷はよくやってくれた」
だが総大将の織田信忠は長秀の様子も含めて小さく笑い、逆に満足げに顎を撫でる。
「あの光秀相手に普通では勝てん。事実、奇想天外な突撃に敵の足並みは乱れて我らの士気が上がっている。彼に先陣を命じて正解だったな」
「信忠様は蒲生殿の戦い方をご存知だったのですか!?」
「まぁ、あれほど果敢とは思わなかったがな」
瀬田川の渡河は危険が付き纏う上に相手は戦上手の光秀。更に堅牢な陣地と誰もが後退ってしまう事態ににも関わらず、齢21の若者が一番槍という頼もしき姿に家臣たちも歓声を挙げる。
そしてこの天下の大戦で功を得るべく織田兵は負けじと川に突き進んでおり、結果的にではあるが先陣としての務めは最大の働きを務めてくれたのだ。
「……ちなみに、信忠様。先ほどから落ち着きがないというか……何故に腰を浮かせて今にも動き出そうとしているのですか?」
「久々に私も槍を振るいたいな……なんて」
「……敵ではなく心労に殺されそうだ」
氏郷の一番槍に感化されたのは織田兵だけでなく信忠もであり、飛び出したくて疼いている姿に長秀の胃が辛くなる。
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