夢は儚く

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織田軍の果敢な渡河地点から少し離れた戦線では、下流周辺を警戒する明智兵が川の向こう側を見渡していた。 瀬田大橋周辺と渡河地点が激戦地となっており、兵を集中させている為に他の戦線ではまだ戦闘が始まっていなかったのである。 上流から次々と死骸が流れており、明智兵は紅い蔵物ながれる光景に思わず吐き出しそうになって口を塞ぐ者もいた。 「……んっ?今、川に波紋が広がったような」 「死体が流れて来ているからだろ?」 夥しい死骸と血の量。見てられないそれに明智兵は思わず川から視線を外したのだが、その瞬間異変が引き起こる。 突如として川の中から幾本もの槍が飛び出し、周辺警護していた明智兵の顔面が抉られたのであった。 「なっ!?何事か!!」 振り返るとずぶ濡れになった一団が刀を引き抜いて迫って来ており、声を挙げる間もなく次々と切り捨てられて川に投げ捨てられる。 「たっく、死体だらけの川を泳いで口ん中に変なの入ったわ。気持ち悪りぃ」 「ともあれ川を渡り切りましたな、才蔵殿」 具足も付けずに袴一枚の男は織田家臣の可児才蔵であった。彼らは流された織田兵の死骸を覆い被さって身を隠しており、十人程度の者が音もたてずに泳いで渡河したのである。 そして才蔵は明智兵の死骸から具足を剥ぎ取って着込み、瀬田大橋に向かって走り出す。 「さぁ、テメェら!!派手にぶっ壊せッ!!」 才蔵率いる一団は明智陣地に突入し、立ち並ぶ櫓の脚部を破壊して廻り次々と倒壊させてみせた。 更に倒壊した櫓は川に叩き込まれ、織田兵がそれを攀じ登り足場として渡河する。
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