夢は儚く

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一時撤退を開始した織田軍は、瀬田大橋から離れて本陣の守備に戻っていた。そして戦闘に参加した諸将は信忠の前で頭を下げる。 「申し訳ございませぬ、信忠様。此度の失態はこの氏郷に責が御座います」 「よいよい、心高ぶる気高き先駆けであったぞ」 緒戦の敗北を被った織田軍ではあったが、信忠は攻める事は一切せずに労いの言葉を言う。 そして一通り声をかけて各々の陣に帰らせた後、信忠の陣の中にはごく少数の信の置ける者だけを残し深い溜息を吐き出す。 「……長秀、今日の一戦を見て突破できると思うか?」 「控えめにいって……正面からでは無理ではないでしょうか」 明智軍の士気は思った以上に高い。そして圧倒的な数の差を前にしても怯まず統率がとれている姿は瀬田川の鉄壁さを物語っていた。 「正面からの突破は困難、故に先んじて京極家に奪われた北近江の長浜城奪還を提言します」 「長浜……?仔細を申せ」 「長浜城には多数の船を配備されている筈です。これを取り戻せば攻撃可能範囲が大きく広がります」 正面突破ではどれほどの被害になるかが見当もつかないからこそ、長秀は多少遠回りになろうとも二の矢を投ずるべきだと言う。その内容は兵を割いて敵に制圧された長浜城を取り返し貯蔵している船を使えば横ばいを突けれるというものであった。 この提言に信忠は暫し考え込むが、明智軍を討ち破った後も毛利家や蜂起した浅井家に朝倉家と敵は多く残っている。故に必要以上の犠牲は抑えるべきであり、時間も掛けたくないが他に手は無いかと判断する。 「長浜奪還を認可する。六千の引き抜きを許可するので明朝に行動を開始せよ」 「承知致しました」 そして次の手を決定した信忠は体を休める事を命じ、その日は終わりを告げる。 織田兵の誰もがそう思っていた。
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