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子二つ刻、月は厚い雲に覆い隠される。
そんな暗い闇夜に乗じ、明智・筒井軍は大和の国を経由して織田陣に攻撃を開始した。だがこの事態を阻止する為に順慶が使者を走らせていたので何とか襲撃前に信忠に知らせる事を成功させた。
「夜襲とは面倒な……一兵たりとも陣内に入れるでないぞ!!」
「応ッ!!」
南陣を守備していた藤孝は短い期間で守りをより強固にしていたので混乱なく迎撃に移る事ができたのである。
だがそんな南陣とは真逆の琵琶湖周辺の北陣では暇そうに警備する。彼らは緒戦では予備軍に廻されていたので持て余しており、今回も戦闘は南陣との事で天下の大戦にも関わらず功を挙げれずに溜息をつく。
「んだよ、攻め込まれているのは逆の陣だしまた出番はお預けかよ」
「一世一代の戦だってのに……手柄の一つもないと、かかあにどやされるわい」
北陣の織田兵は退屈そうに空を見上げる。雲が天を覆っているが、それが風に流されて徐々に月が姿を現して光が差し込みだす。
その美しき月は皆々の視線を釘付けにしてつい戦中である事すら忘れてしまうほどであった。
「酒がありゃ月見のひとつもできんだが……んぁ?」
月を見上げていると、とある光景が映り眼を細める。雲が流れてきた訳でもないのに月に影が入ったのであった。更に見続けているとその影が次々と増えて、それが近づいてきているのと同時に正体に気が付いて顔を青くする。
「頭伏せろぉッ!!矢が降ってくるぞッ!!」
「ひっ!!うわぁッ!!」
雲の代わりに空を覆い尽くす正体は弓矢の雨であった。しかもその数は数百はあろうものであり、北陣の織田兵は降り注ぐ矢に晒されて阿鼻叫喚に陥る。
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