夢は儚く

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織田兵は突然の攻撃に狼狽して必死に頭を下げていると、琵琶湖の方から灯りは消されてはいるものの闇夜の中から船団が姿を現しており開いた口が塞がらなくなる。 そして混乱に乗じて船団から武装した兵が上陸しだし、次は陣に火を放ち延焼させていったのだ。 「退けぇッ!!北陣を放棄して退くのだぁッ!!」 「こっ、後退?後退命令だ、急げッ!!」 さらに織田兵は何が起こっているのかも理解しきれないまま何処ぞより聞こえていた後退の指示に飛び付いてしまい、持ち場を離れて行く者も続出してしまう。 この混乱を治めるべく織田将兵の氏家直元が前にでたが、完全に出番はないと油断し切っていた為に混乱の極みに叩き落とされており、統率を執ろうにも一筋縄にはいかずにいる。 それに内心で明智軍を甘く見ていた。織田軍が数に勝っているからこそ、川は越えずに防御に徹するだろうと考え、実質的に退路がない上陸作戦を執るとは考えていなかった。 「退くでない、戻れぇ!!北陣を死守するのだ!!」 直元は喉を潰す勢いで叫び散らし何とか足を止めさせようとする。だがその最中、目の前から見覚えのある顔が映り眼を見開く。 「斎藤利……み……つ……」 その者は明智光秀の片腕たる斎藤利三であり、直元は彼の名を言い切る前に一閃で首を撥ね飛ばされる。 そして首を撥ねた利三は振り返る事なく息を大きく吸い上げた。 「氏家様が討ち取られたぞぉッ!!後退ッ!!後退せよぉッ!!」 「急げぇッ!!とにかく走れぇッ!!」 これを機に更に混乱が生じる言葉を叫び、明智兵も続くように煽って織田兵をより混乱させる。 結果的に北陣から後退してゆく織田兵は数千にも昇り、利三率いる明智兵はそれに乗じて奥の陣内へと踏み込んでいった。
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