夢は儚く

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北陣の騒ぎは他の陣の者たちにも耳が入った。 そして中央陣に居た蒲生氏郷は何事かと眉間に皺を寄せて歩きながら具足を着けさせ、馬に飛び乗り先陣の際にも使った大身槍を手渡される。 「氏郷様ッ!!北陣の氏家様は既に討ち死にされ後退されているとの事!!」 「敵は南ではなかったのか!!いや、審議している時などない……蒲生軍、北へ向かうぞッ!!」 兎にも角にも北陣に急行した氏郷ではあったが、そこで見た味方の光景に思わず舌を打つ。 織田兵は混乱に混乱を重ねて逃げ惑っており、敵はそれを利用して紛れている為に誰が味方で誰が敵かもよくわからない状態だったのだ。 味方同士で背を押し合って務めを忘れる姿があまりに情けなく苛立ちが積もり、手始めに先頭で我先にと逃げている者を切り捨てた。 「止まれ止まれッ!!これ以上に退けば味方であろうと切るぞッ!!」 氏郷は逃げる味方を何とかしようと蒲生兵を退路に並べて押し止め、自身も前に出て張り裂けんばかりに叫ぶ。 だがそんな最中、突如として声が出なくなる。何かに威圧され寒気に背筋が凍る感覚に陥ったのだ。 「なっ……何だこの感覚は……此処までこの氏郷を高ぶらせるほどの敵かッ!!」 この元凶を見つけるべく歯を喰い縛り馬の上に立つ。そしてその正体は不思議な事に引き込まれるが如くすぐ視界に入った。 「あの面……知っているぞッ!!斎藤利三だろうが貴様ァッ!!」 眼に映るそれは馬に跨がる利三であり、明智家随一の武勇を持ち合わす彼に手合わせ出来るという興奮も抑えきれず、思わず歯を見せた。 そしてこの者を討ち取れば事態も収まると大身槍を振り回し矛先を向けて鋭く睨み付ける。
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