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「邪魔だ、雑兵ども邪魔だッ!!斎藤殿と御見受け致すッ!!いざ尋常に参るッ!!」
氏郷は進路上の兵を散らせて利三に向かって馬を走らせる。そしてその叫びは相手の耳にも入ったようであり、互いに向かい合う。
騎馬と騎馬の一騎討ち。誤魔化しようの無き実力を試されるこの場面に氏郷は高揚感が抑えきれなかった。
「利三の首を挙げたとなれば、この氏郷の名も日ノ本に轟くというものッ!!腕が……鳴る……ぇ?」
気概十分といったばかりに突き進んでいた氏郷であったが、近づけば近づくほどに違和感が生じる。
利三の体が。そして存在そのものが果てしなく大きく錯覚し、逆に自身は反比例するかのように小さく感じたのだった。
「っあ……ぁ、くッ!!」
突如としてあれだけ叫んでいた声が詰まり、無意識のうちに手綱を横に引いてしまい距離をとりつつ槍を合わせずにすれ違う。
この行動に対し利三はすれ違い様に小さく鼻で笑い、この小声ていどの微かな笑いが氏郷の頭の中で激しく響いた。
手と額には滝のように汗が流れ落ち、必死に抑え込もうとするも瞳からも悔しさのあまりに滴が落ちそうになる。
「……情けない……何と情けない事をしてしまったのだ」
氏郷は今までどのような敵と対しようと、どれだけの数と対しようと恐れなく前へ突き進んだ。
しかし自身は斎藤利三というたった独りの者に気圧され臆したというのか。
本能的に魂が叫んでしまった。体が動いてしまった。格が違うのだと感じ取ってしまい避けてしまった。
そして何より、利三に格下と見られて捨て置かれた事に僅かでも助かったと思ってしまった事に腸が煮え繰り返る恥辱を感じる。
「クソッ!!今からでもまだ……ッ!!」
氏郷はまだ追えば利三と仕切り直せると考えたが、逃げる織田兵に前を塞がれて距離を詰めるに叶わなかった。
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