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利三は総大将の居る中央陣の眼と鼻の先まで詰め寄る。だがしかし織田木瓜が画かれる陣幕を捕えた矢先、横から阻止せんとする一団が姿を現した。
鶴の丸の家紋を掲げて駆ける者は信忠の懐刀である森長可であり、明智兵を人間無骨で突き刺し掬い上げて高らかに笑う。
「この長可様を差し置いて先に進めるとでも思ってんのかぁッ!!」
長可は明智兵を次々と切り捨て駆け回るが利三と槍を合わせて阻止され、勢いに水を差された長可は大きく舌を打ち足を止める。
そして矛を交えてみてこの軍勢がどれほどの覚悟か悟り息を呑む。
切られた明智兵は血を流しながらもすぐに立ち上がり戦意を衰えさせない。ただ一点に目指すべき場だけを見据えており驚異的な信念が窺えた。
また長可はこれと同じものを知っている。それは山県昌景と朝倉景鏡の二人であり、彼らもまた仰ぐべき主君の為には己が命が失う事などまったく厭わないという者だった。
これは北陣の織田軍が勝てないはずである。
兵力が勝っているという余計な余裕と敗北しても安土城や岐阜城が残っている故に再起が計れるなど甘い考えを捨てられない奴等では、確固たる信念の持つ者に勝てるはずがない。
「いいか野郎共ぅッ!!この場で止められなきゃあ信忠様の御手を煩わす事となんぞッ!!んなっ事になったら全員で御先祖様の墓の前で剃髪すっからなッ!!」
「応ッ!!」
長可も自身の気概を高らかに叫びあげて森兵を鼓舞する。そして利三を信忠に会わせるのは絶対に駄目だと直感して再び馬を走らせる。
「……森家か、信忠まであと一歩だというに。本能寺といい何かと因果があるのか」
利三は一直線に此方へ向かってくる長可を見て本能寺で殺した森兄弟を思い返しながら、手綱を寄せて迎え撃つ形をとる。
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