夢は儚く

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「その首ぃ、寄越せぇいやぁッ!!」 長可は再び槍を振るうが、またしても利三に易々と去なされてしまって互いに鍔迫り合いに打ち合いを繰り返す。 だが利三も仕留めるに足りる一撃が入らない。長可の馬である百段が人馬一体といわんばかりに巧みな足捌きを魅せており、手綱すら持たずに槍を両手で振るう為に些か手を焼く。 「ふむ……利口な馬だ」 この戦い方を見て利三は思わず唸りながら頷く。 名馬、百段。よく調教された馬であるものだと感心までするほどだった。 馬と乗り手が互いに絶妙なバランスをとる事により、一度振れば姿勢が崩れる騎乗槍を悠々とこなしている。 「どうしたッ!!防戦一方じゃあ俺は死なねぇぞッ!!」 「否、そうでもないぞ?」 挑発を投げ飛ばす長可であったが、対して口元が釣り上がって槍先を動かした。そして殺意の込めた刃を百段の眼前に寄せたのである。 これに反応した百段は嘶きを挙げて大きく前足を上げて利三を威嚇した。 だが正しくは威嚇してしまったのだ。突如として動き出した百段に長可は致命的とはいかなくともバランスが崩される。 そして利三は槍を回して長可の獲物を弾き飛ばしたのであった。 「てめっ!!よくも人間無骨をッ!!」 「馬が賢すぎるというも考えものだなッ!!」 武器を失った長可は眼を見開いて声を失う。このまま追撃を受ければ容易く殺されるは必定である。 かといって馬を翻して逃げ出す暇など利三が与える筈がない。ならばやるべき事はただ一つというものであった。 「まだぁッ!!まだ、まだまだぁ、まだだァッ!!」 長可は百段の背を蹴って飛んだ。そして退路がないなら前に出るとして利三に向かい飛び付いたのであった。
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