夢は儚く

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時は逆戻ること六日前。中国地方の備中の国に構える備中高松城を攻撃していた羽柴軍であったが、本能寺の変の報告が来たと同時に毛利軍が動き出していた。 そして羽柴秀吉も決戦の意を固めて羽柴軍二万八千と毛利軍三万五千が互いに対峙し合い陣形を組んでいる。だがこの幾万人もの殺気が辺りを震わせる最中で羽柴軍から飛び出す単騎の者が現れたのである。 この者に毛利軍は釘付けとなり、毛利軍総大将の小早川隆景も眉をひそめて動向を窺う。 「毛利軍の諸君、私は羽柴家が家臣たる竹中重治なり!!此度は毛利家の危機を知らせるべく小早川殿に御会いさせて頂きたい!!」 「……毛利家の危機とな?ははははっ、自身の危機の間違えでないか?」 そして重治はあろう事か毛利家が危機に陥っているなどと言い、これを耳にした隆景は織田家の危機の間違えだろうがと思わず笑ってしまう。 「隆景様、かの竹中という者は今まで小癪な策を用いてきています。合うこと自体が罠の可能性と警戒しておくべきかと」 「それもそうだが、陣形を整えるまで余興を見るも悪くない。何よりここで臆してしまったとなれば兄上にも冷やかされよう」 隆景は織田軍攻撃の意向を曲げる気など全くないが、聞くだけ聞いてやろうと思い本陣に招き入れて直接対面する。 まず重治は軽く会釈を下げるが、すぐに頭を戻して扇で口元を隠しながら余裕を思わせる表情をした。そしてこの姿に毛利兵の誰もが苛立ちを覚えて隆景も同じ感情を覚える。 「赴きの要件は一つである。毛利家は危機を脱する為に織田家と和睦されよ」 「…………はぁっ?」 そして出てきた内容はあろう事か、この織田信長が死んだという一世一代の好機を棒に振って和睦しろというものであった。
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