夢は儚く

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この気狂いを黙らせてさっさと羽柴軍を叩く。そう考える隆景は威圧する様に床几から立ち上がって見下しながら口を開く。 「何を言うかと思えば……我らは遊びで戦などしているのではないぞ。手ぶらで和睦では税を負担する民や死んだ者たちにどの面下げればよいか」 「その点は問題ない、互いに溝が残らぬよう善処しよう。まずは占領されている備中の領土をすべて返すことを約束し、次いで中央の騒ぎが治まれば更なる追加をしましょう」 しかし威圧に対してまったく動ずる事無く、淡々と和睦条件を続けて言いだし顔を顰める。 一応、和睦内容としては備中すべてを得られるのなら悪くはない。毛利軍は当初の目的以上の成果を得たと面目も保てるが、今話しているのはその様な問題ではない。 何より重治が言う、和睦が毛利家の為だという口振りが煩わしく腹が立って相手に聞こえるように大きく舌を打った。 「これ以上、我らを馬鹿にするのは止めて頂きたい。つまらぬ話を続けるのなら即刻帰られよ」 今日という日まで毛利家は羽柴軍にこっぴどく叩かれており、これが最初にして最後の逆転の時だと考えるのも当然の事であった。だがその内面に潜む焦りを見透かすように扇を閉じて不敵な笑みを見せる。 「そう焦られるな、まず此度の高松城攻めの真意を御提示致しましょう」 「……真意だと?」 「まず始めに此方を御覧くだされ」 重治は真意などと意味ありげな言い回しと共に、懐から一通の書状を取り出して傍に控える毛利将兵に押し付けるように差し出す。そして受け取った将兵は面倒なと内心思いながら隆景に手渡した。 何を見せる気かと書状を広げると、真っ先に送り主の名が映り眼を細める。 その送り主とは、 北九州の覇者たる大友宗麟の名と花押が記されていたのだ。
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