夢は儚く

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手渡した書状を見て眼を細めた隆景を重治は見逃さなかった。そして畳みかけるように続けて口を開く。 「この備中高松城の真意、それは貴殿ら毛利本隊を誘きだして大友軍が安芸を攻める事にあります」 高松城を陥落させるだけなら、湿地地帯故に多少苦戦しようとも羽柴軍の実力ならばさほど時も掛からずに可能である。だが敢えて力攻めは行わずに水攻めという手間暇掛けて壮大な計画を実行したのは相応の意味があった。 水攻めの為に創り上げられた堤防は東南約4キロメートル、高さ8メートル、底部24メートル、上幅12メートルという他に類を見ない絶大な規模でありながら僅か12日で完成。更に要した費用は米63500石、銭63万5000千貫余、要した土俵635万俵という膨大な金銭と物資を用いている。 これは織田家の圧倒的な国力を象徴するに余りあるものであり、前もって外交ルートを持っていた大友家に今こそ毛利家を潰せると煽らせるには十分なものであった。 そして高松城に救援として毛利本軍が動いたら、後ろから大友軍が安芸を突けという算段を用意していたのだ。 「どうした、時が惜しいのだろ?京に行く為だったか?それとも安芸に戻る為だったか?」 続けて言われた挑発に歯を喰い縛り憤慨を露にした。 だがこの備中に廻した毛利軍はほぼ全軍といっても過言でなく、本国に残している軍勢はせいぜい数千ほどであり、同時にそこには当主たる毛利輝元が居る。 もし此処で羽柴軍と戦おうとも毛利軍も無傷ではいられない。そして大友軍と連戦となれば去なせるかといえば確信はなかった。 「…………備中からの退去は本日中に即刻行え。そして謀叛鎮圧後の報酬も忘れるな」 「当然で御座います」 例え大友家の同時攻撃が虚言であろうとも、羽柴軍が退くのは十中八九間違えない。故に不服ではあるが此処はこの地と共に織田家に大きな恩を売るべきかと折れる事とする。
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