夢は儚く

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隆景から和睦の誓書を得た重治は意気揚々と羽柴軍に帰還して即刻撤退に取り掛かる。 そして交渉中の時間を使って羽柴軍は黒田高孝の指示の下に攻撃準備は一切行わずに撤退準備だけを取り掛かっており、無駄な時を一切要さずに迅速な行動を可能とさせた。 このような羽柴と毛利のやり取りなど露とも知らない明智光秀は現状打開の方法を考え込むが、どうやってもまずは瀬田川の陣地を放棄せざる負えないと思わず唇を噛み締める。 「光秀様、そうなれば一刻の猶予も御座いません!!信忠を討つか否かの御下知を!!」 「……信忠を討つか」 今すぐに本隊を突入させれば信忠を討てるやも知れないが、今の信忠は攻めだけでなく守りと引き際を弁えている。もしも少しでも討ち取る事に手間取れば羽柴軍が到着して倍以上の敵に挟撃を受ける事となり、そうなったらもはや誰一人として生き残る事は叶わないであろう。 そしてこの後無き決戦に於いて負けを考慮したということは、自身の中で敗北を認めてしまった事と同じで深く息を吐き出す。 「退き太鼓を鳴らせ。坂本城まで撤退する」 この一戦は終いである。これを暗に認めてしまった光秀の決断は撤退であったのだった。 撤退命令に秀満は一瞬だけ眼を見開いて驚きの表情を見せたが、必要以上の言葉を発する事無く背を向けて歩き出す。 「……承知いたしました。それでは某は瀬田大橋にて殿軍を務めます。」 そして殿軍を引き受けると言いながら小さく笑う。 「いい夢を見させて頂きました。まぁ、なんですか。先に黄泉へ向かい軍勢でも整えておきますよ」 「……あぁ、後で会おう」 最後まで振り返る事無く秀満は帷幕を後にする。そして自身の軍に戻る最中に明智軍の敗北を告げる太鼓の音が虚しく響き渡った。
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