夢は儚く

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太鼓の音が響く。その意味合いとは裏腹に力強く鳴るそれは皆の胸に響く。すべてを終わりを告げる悲しき音が。 明智軍撤退。これにより織田陣を攻撃していた明智別動隊も戦う意味を失い散り散りとなって逃げだしてしまった。 そして当然ながら織田軍がこの機を逃す筈がなく、すぐさま混乱を鎮めて追撃を開始。追い首を取り功を取らんと明智兵を後ろから切り道先々に骸を討ち捨てる。 次いで織田軍は瀬田大橋に殺到する。そのまま光秀を殺して手柄に有り付こうと眼をギラつかせていたのだ。 「誇り高き明智軍に告ぐッ!!今なら間に合う、逃げ出して家族を抱くもよしッ!!山に潜み賊になろうとも生き永らえるもよしッ!!」 そしてこの織田軍を見た秀満は瀬田大橋の前で刀を引き抜き明智兵に叫び兵に問い掛ける。 「だが一人でも残ってくれる者がおるのなら、一人でも心ある者がおるのならッ……共に敵を殺ろせぇぇぇぃいッッ!!!!」 「うおおぉぉぉぉぉぉッ!!応ぅッッ!!!!」 瀬田大橋に布陣する明智軍は秀満の指示に従い応戦を開始する。 恐れがないとは言わない。未練がないとは言わない。だが自らの意思を持ち誰一人として逃げ出すことなく天を轟かさんと咆哮を挙げて殺さんとする。 そして明智秀満及びその手勢三千余り、迫る織田軍幾万人と明智軍を逃がすために瀬田大橋で衝突。 三千人の悉くが死に絶え秀満も共に死んだが、その死の間際に川に身を投じて敵に首を渡さなかったのである。 だがこの秀満の軍勢は三刻もの長き時間を死守しきり光秀が退くまで戦え抜いた。 この殿軍により織田軍は恐れを成してしまい全滅するまで誰一人として瀬田大橋を渡る事が叶わなかったのである。
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