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「私は怖かったのだ……父上が背負う他人の悪意や怨みを背負うことが……父上はこんなにも大きな重圧を背負っていたのだな」
信忠のいう父上とは信長の事である。そしてその信長は蹂躙や焼き討ち、根切りに磔と、多くの人達を殺している。
そして殺した分だけ怨みが募り、殺した分以上に敵は増え続けてゆく。
これほどの重みを背負えようか、背負ったその先に何が見えようか。信忠にはそれがわからなかったが故に怖かった。
「だからこそ京を脱出せずに二条城に入ってしまったのだ……それを打ち破らんと息巻いてな……だがこれは、ただ前の現状から逃げ出したかっただけなのだろうな」
信忠は両手で持つ脇差が小さく震えさせながら刃を自身に向けながら続ける。
「謝らなければならないな……父上にも……家臣達にも……殺してしまった者にも」
そして信忠は自らの腹に刃を入れた。
それを見た新介は涙ながらに構える刀を信忠の首元に向かって降りおろす。
「……そうだ……松姫にも……謝らなければな」
信忠は最後に小さく呟くと優しく微笑んだ。
そして家臣達は果てて見せた主君に深く頭を下げる。
天正10年6月2日 (1582年6月21日) 織田信忠は26歳で没す。
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