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「……なに?」
それはほんの一瞬。
小さくて黒い影が開いた戸口の向こうで駆け抜けた……ように見えた。
けれど音は何もしない。聞こえるのは風が吹き抜け、カーテンをはためかせる音だけ。
それ以外は、教室内も外も不気味なほどに静かだ。
ーー気の、せい……?
小さく首を傾げ、戸口に向かって歩き出す。
殺風景な教室内、その西に位置する壁には大きな黒板。
その丁度上に丸い壁掛け時計が15時半を指している。
何気なくそれを見ながら、私は教室を後にしようとした。だけどーー
「待って……帰っちゃだめだ」
突然聞こえてきた声。
ーー誰?
廊下に出ようとしていた私の足は、宙でピタリと止まった。
それが廊下を踏みつけることはなく、再び元の位置に戻り、声の主を確かめるためにもう一度教室内を振り返る。
誰もいないはずの教室。
なのに、そこにいたのはーー
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