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「……猫?」
茶トラ猫が窓際の机の上にちょこんと座っている。
ーー何で教室に、猫?
不思議に思う間も、金色に輝く瞳でじっと私を見つめてくる。
その瞳はどこか懐かしさにも似た感情を私の胸に宿し、くすぐる。
「君……どこから入ってきたの?」
逃げ出しはしないかと、ゆっくり忍び足で近づいてゆく。
その間も猫は身動きひとつせず、じっと私を見つめているだけで、懐く様子もなければ警戒している様子もない。
伸ばした手は、簡単にその肌に触れさせてくれた。
ーー暖かくて、毛並みが気持ち良い……。
優しく頭を撫でてやると、目を細めて頬をすり寄せてくる。
ーーふふっ、可愛い。
「私、神田ちゆり(かんだちゆり)君の名前は……?」
なんて、思わず聞いて微笑んだ。答えるわけなどないとわかっているけれど。
「……僕の名前を、君は知っているはずだよ」
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