茶トラ猫

4/8
前へ
/245ページ
次へ
「……猫?」 茶トラ猫が窓際の机の上にちょこんと座っている。 ーー何で教室に、猫? 不思議に思う間も、金色に輝く瞳でじっと私を見つめてくる。 その瞳はどこか懐かしさにも似た感情を私の胸に宿し、くすぐる。 「君……どこから入ってきたの?」 逃げ出しはしないかと、ゆっくり忍び足で近づいてゆく。 その間も猫は身動きひとつせず、じっと私を見つめているだけで、懐く様子もなければ警戒している様子もない。 伸ばした手は、簡単にその肌に触れさせてくれた。 ーー暖かくて、毛並みが気持ち良い……。 優しく頭を撫でてやると、目を細めて頬をすり寄せてくる。 ーーふふっ、可愛い。 「私、神田ちゆり(かんだちゆり)君の名前は……?」 なんて、思わず聞いて微笑んだ。答えるわけなどないとわかっているけれど。 「……僕の名前を、君は知っているはずだよ」
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加