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凛と佇んだ猫は夕日を浴びて眩しそうに目を細めている。
キラキラと輝く金色の瞳。
その瞳が何かを訴えかけているような……なぜか、そんな気がしてならなかった。
「それでもちゆりちゃんは大切な何かを忘れてしまってるんだ」
「大切な何かって……何を?」
問いつめる私に対し、茶トラ猫は頭を項垂れ、静かに言った。
「……それは僕にもわからない」
なに、それ。
それじゃ何も分かるわけがないじゃない。
「けど……」
躊躇ったように、一旦言葉を切り落とす。
ビー玉みたいな瞳はどこか憂いでいるような……そんな儚さを感じた。
「僕と一緒に忘れた記憶を取り戻そう。その手伝いをする為に僕はここにいるんだと思うんだ」
ーー変な事を言うんだな……ってそう思った。
だって自分の記憶すらままならないのに、どうしてそんなこと言うんだろうって。
だけど、なぜだかこの猫がいうように、なんとなくそうしなければいけない気がして。
そう感じる事も不思議だし、ましてや猫がしゃべっている事をどこか冷静に見ている自分も不思議だった。
だからかもしれない。この茶トラ猫の話を受け入れようと思ったのは……。
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