春恋桜歌

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    浴衣越しに触れた二の腕は、  温泉で温められていつもより  熱い。その熱さに理性が揺ら  いだ。   少し触れるだけのつもりが、  指先は二の腕を通過して純平  の体を抱き締める。  「ま、牧村さん」   予想外の展開に純平はその  腕を外そうとしたが、逆に手  首を捕まれた。  「……」   牧村は何も言わない。必死  で暴走しそうになる熱い感情  を抑えているからだ。   抱き締められて密着した背  中に牧村のホコホコした体温  を感じる。薄い生地の浴衣で  は、体温だけではなく相手の  肉の感触さえ伝わってきて、  純平は耳の奥でドクドクと波  打つ鼓動と、牧村の息遣いに  頭がクラクラし始めた。  「――はッ」   苦しくなって短く息を漏ら  した。牧村を意識し過ぎて呼  吸を止めていたことに自分で  気付く――
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