1906人が本棚に入れています
本棚に追加
/513ページ
「あー……えっと、こんばん
は」
遠慮がちに挨拶をされて、
最初はすぐに気付くことがで
きなかった。
「俺のこと解ります?ランチ
食べてた店の、あ!これで解
るかな?」
だが印象的な赤い唇ですぐ
にあの時の青年だと知る。
今まさに思い出していた相
手だっただけに、私は驚いて
反応出来なかっただけなのだ
が、青年は自分の正体が解ら
ないのだと思ってしまったよ
うだ。
昼間はサラサラと揺れてい
た前髪が、今はセットされて
立ち上がっている。白シャツ
に黒エプロンだった服装も、
革ジャンにダメージジーンズ
に変わっていた。
「どう?」
青年は額を手で隠して私の
顔を窺う――おそらくだが、
彼は額を隠すことで前髪があ
る姿を表現したのだろう。
その様子が愛らしく思えて
つい笑みを零してしまう。
最初のコメントを投稿しよう!