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「寒いのかい?」
彼はとろんとした瞳で頷い
た。どうやら眠気と戦ってい
るようだ。
仕方がない――私は着てい
る春物コートを脱いで青年の
肩に掛けてやる。
「牧村さん、やっさしー」
暖を求めた彼は私の背に腕
を回してきた。胸に頬をスリ
寄せられると甘い香りが漂う。
「はいはい、ちゃんとひとり
で帰るんだよ?」
あやすように頭を撫でれば、
彼は私の胸に顔をうずめたま
まで、こくりと頷いた。
空車を見つけて彼を乗せる
と、ドアを閉める前に腕を掴
まれる――
「俺、明日待ってるから。絶
対来て下さいね」
……彼はとても不安そうに
私を見つめていた。
「あぁ、必ず行くよ」
それで彼が安心するならと
私は必ずと約束し、彼の乗っ
たタクシーを見送った。
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