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きっかけはあの人の涙――
叔父貴の店のカウンター席、
その一番奥が俺の定位置。
背の高い観葉植物のおかげ
でフロアの客からは見えにく
いというのが気に入っている。
昔からこの容姿のせいで苦
労をしている。食事の時ぐら
い人目を気にしないでいたい
と思う気持ちは、俺より苦労
している叔父貴に伝わったら
しく、いつの間にか観葉植物
の数が増えていた。
あの日も俺はひっそりと飯
を食っていた――
「少し失礼します」
慌てたような男の声が聞こ
えた。別に興味があったわけ
じゃない。ただなんだろう?
ってそれだけの気持ちで俺は
振り返った――
観葉植物の向こう側で、ス
ーツ姿の男が泣いていた。
――目が離せなかった。
自覚したのはもう少し後の
ことだけど、俺の“恋”はこ
の瞬間から始まった――
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