春恋桜歌

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   (そう言えば……背中をちゃ  んと見るのは初めてだなぁ)   純平の肩に手をかけて、タ  オルで優しく背中をすり初め  る。  (脱衣所で拗ねたりするから、  体が冷えてるじゃないか)   純平の素肌は少年のように  柔らかい。タオルではなく、  手の平を滑らせたいと思うの  は、牧村の立場からしたら仕  方のないことだ。   ――“初夜”……それを望  んだのは純平である。   その言葉を聞いてから、牧  村の胸の高揚は続いていた。  (駄目だな私は……年甲斐も  なく緊張してしまう。私がし  かりしなくては)   早く触れたいと気持ちは焦  るが、果たして上手くことが  成せるかが気掛かりだった。  「牧村さん、肩……痛いよ」   肩越しに振り返った純平の  頬は赤い。純平もまた、牧村  に触れられると意識せずには  いられない。
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