春恋桜歌

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    肩に残ったすぐに消えてし  まう指の跡……そこに唇を重  ねた牧村は、身をよじって抵  抗する純平に構わず強く吸う。  「ッ!ンーッ!」   甘い痛みに純平の頭は一気  に血を昇らせる。息苦しさに  唇を開けば牧村の指が歯に当  たり、全身が心臓になったか  のように脈を打ち初めた。   自分に火が点いたことぐら  い経験で察したが、抵抗して  もビクともしない男の手に恐  怖すら感じる。   たまらず牧村の指に歯を立  てて抗議した。  「はッ――な、なにやってる  んですか、こんな所でっ!」   噛まれた指の痛みに我に返  った牧村は、すぐに純平の口  元から手を放した。焦った純  平は周囲に見られていないこ  とを確認しながら牧村を叱責  する。   運が良いことに、洗い場に  は他に誰もおらず。奥のレー  ンだったために温泉につかっ  ている利用客達からも、鏡の  並んだ壁のお陰で死角となっ  ていた。
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