春恋桜歌

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   「あ――うん。ごめん」   噛まれた指を逆の手でさす  りながら、牧村は自分でも驚  いてしまった。その表情を見  て、純平も戸惑ってしまう。  「あの……あとは自分でやる  から……」  「うん……そうだね。その方  がいい」   暴走してしまった自分にシ  ョックで意気消沈してしまい、  牧村は立ち上がると何も言わ  ず歩き出した。  (何てことだ。こんな公共の  場で我を失うなんて、私らし  くないではないかっ)   道徳心からくる猛烈な罪悪  感に頭を掻き乱した。   純平の健康的な肌に出来た  赤い跡――それを自分が付け  たと思ったら、腹の底から湧  き上がった“雄”としての本  能が暴走してしまった。   すぐに消えてしまう指の跡  ではなく、もっと確かに残る  証を……そう強く望んでしま  った上での暴走だった。
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