春恋桜歌

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   (フゥ……頭を冷まさなくて  は)   牧村は人の少ない場所を見  つけて、岩風呂になっている  湯船につかる――   そんな牧村の背中を眼で追  いかけていたが、湯船に入ら  れると死角になって見えなく  なった。  (ハァ……ビックリした)   牧村の姿が見えなくなって  やっと息をついた純平は、膝  を抱えて背中を丸めた。   肩には指の跡は消えていた  が、自分で見えるか見えない  かのギリギリのところに、内  出血の赤いシミが出来ていた。  (熱い……)   純平は肩を抱いて牧村の残  した感触に胸を焦がす。触れ  られた部分から熱が広がって、  全身の血が沸騰しそうだと堪  らない思いに駆られた。  (ヤバいな……これは)   熱くなる一方の赤い頬に、  一筋の汗が流れる。手の甲で  それを拭いながら、タオルで  隠した半身の状態に困った。
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