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見て確かめる必要はない。
たったあれだけのことに、心
臓は高鳴り、頭の芯がボーッ
とする――純平の体は反応し
てしまったのだ。
(うう……どうしよう)
今ならまだ大丈夫。落ち着
けば大丈夫。純平は自分に暗
示をかける――だが、邪念に
邪魔をされた。
(牧村さん……牧村さん、牧
村さん――ヤバいよ。ヤバい。
もうヤバいって!)
冷静になることは不可能だ
った。勢いよく立ち上がり、
細い腰にしっかりとタオルを
巻いた。
気にして歩くと逆に目立つ
と思い、ズカズカと大股で歩
いて、迷わず牧村を目指す。
岩に足をかけて湯船に入る
と、水圧に足を取られて歩き
難い。腰までお湯につかって
かき分けるように前に進んだ。
牧村は美しい山の景色を見
ていた。遠くを見つめ、頭を
冷やすことに専念しているつ
もりでも、純平のことが頭か
ら離れない。
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