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――純平は真っ直ぐ前を向
いたままで、耳を赤くしてい
る。
水中で牧村の手を握って来
た純平の手――その手からは
強い意志と想いが伝わってく
るようだった。
「……ッ」
前を見ていた純平の視線が
突然伏せられる。鼻先が水面
に付いてしまうほど俯いた。
牧村の手に握り返され、そ
の手から伝わってくる大きな
愛情。胸が締め付けられて、
そのまま心臓が潰れてしまう
んじゃないかと思うほどに苦
しくて、純平は泣きそうにな
る。
「……部屋に戻ろうか」
牧村は優しく穏やかな声で
囁いた。それに対して純平は、
握った指先に力を込め、言葉
もなく頷いた。
湯船から出る瞬間に二人の
手は離れ、部屋に戻る道中は
一言も喋らなかった。
ただ、二人を取り巻く空気
だけが、確実に気温を上昇さ
せていた――
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