春恋桜歌

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    部屋の鍵を開けて引き戸に  手をかけたのは牧村だった。  背中を軽く押されて純平が先  に入る。   室内に上がるための段差を  前に純平は足を止めて、躊躇  った。   この先に行けば何が起こる  かは解っているし、それを望  んで部屋に戻ると頷いた。だ  が、意識すれば緊張してしま  い……  (ヤバい……怖い)   速まったままの鼓動を抑え  ようと浴衣の胸元を握り締め  る――   純平の緊張は強張った背中  からも見て取れた。牧村はし  っかりと戸に鍵がかかったこ  とを確認してから、純平の背  に寄り添う。  「……純平君?」   出来るだけ優しく声をかけ  たが、純平の肩は跳ね上がる。  「……純平君……っ」   どうしたものかと触れるこ  とを躊躇したが、それは一瞬  だけだった――
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