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以前にも似たようなことが
あった。だがあの時とは違う。
焦る気持ちは純平も同じな
のだ。
言葉はなく、転んだことを
笑い合うこともなく、互いの
瞳に魅入った――
(怖い、ヤバい、ドキドキし
て頭バクハツしそう――でも)
先に動いたのは純平だった。
ゆっくりとたどたどしく伸
ばした指先が、牧村の唇に触
れる。
さっきの余韻が体中を駆け
巡って、堪らない気持ちにな
っていた……
(純平君……怯えてる?私の
せいで怖がらせてしまってい
るのは解っている。解っては
いるが――でも)
唇をくすぐる遠慮がちな指
先が、愛しくて仕方がない。
牧村は吐息を漏らし、薄く開
いた唇に指の一本を挟み、小
さく歯を立てた――
(でも……この人が欲しいっ)
(でも……君が欲しいんだっ)
二人の想いは重なり、互い
の瞳からその想いが溢れ出す。
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