春恋桜歌

17/32
1906人が本棚に入れています
本棚に追加
/513ページ
    以前にも似たようなことが  あった。だがあの時とは違う。   焦る気持ちは純平も同じな  のだ。   言葉はなく、転んだことを  笑い合うこともなく、互いの  瞳に魅入った――  (怖い、ヤバい、ドキドキし  て頭バクハツしそう――でも)   先に動いたのは純平だった。   ゆっくりとたどたどしく伸  ばした指先が、牧村の唇に触  れる。   さっきの余韻が体中を駆け  巡って、堪らない気持ちにな  っていた……  (純平君……怯えてる?私の  せいで怖がらせてしまってい  るのは解っている。解っては  いるが――でも)   唇をくすぐる遠慮がちな指  先が、愛しくて仕方がない。  牧村は吐息を漏らし、薄く開  いた唇に指の一本を挟み、小  さく歯を立てた――  (でも……この人が欲しいっ)  (でも……君が欲しいんだっ)   二人の想いは重なり、互い  の瞳からその想いが溢れ出す。
/513ページ

最初のコメントを投稿しよう!