春恋桜歌

18/32
前へ
/513ページ
次へ
   「ッ――牧村さ……もっと、  さっきみたいに……俺っ」   指先の痛みがビリビリと腕  に伝わり全身に広がる。指で  はなく、唇に触れて欲しいと  言葉で言おうとしたが、恥ず  かしさが上回り、そのジレン  マに胸を焦がした純平は牧村  の浴衣の襟に縋った。  「君は……何て顔をするんだ。  ハァ……触れる前に参ってし  まうよ」   純平の瞳から伝わってくる  愛情に、牧村の心臓は鷲掴み  にされる。   強過ぎる想いに酔ってしま  いそうで、純平の前髪を撫で  上げると瞳を綴じさせるため  に瞼に口付けた――  「う……好き。牧村さん、す  げぇ好き。どうしよう、好き  過ぎてヤバいよ」   瞳を封じた途端に言葉が溢  れ出し、純平は綴じた瞼の端  を濡らす。  「フッ。困った子だなぁ……  あまり私を煽らないでくれ」   強過ぎるから瞳を封じたの  に、掴まれた心臓は捕らわれ  たままで牧村は苦笑した――
/513ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1907人が本棚に入れています
本棚に追加