春恋桜歌

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    ――‐‐  「フゥ……」   牧村はひとりユニットバス  から出ると、疲労感漂う溜め  息をついた。   部屋を見ると、ガラスの向  こうで小さく丸まった背中が  見えた。  「……ハァ」   今度は重い溜め息をつく。  腰のバスタオルを締め直して  から歩き出すと、テラスの戸  を開けて外に出た。   薄明かりの中を、桜の花弁  が舞っている。  「純平君、花冷えしてしまう  よ」   鼻を啜り、目元を浴衣の袖  で拭ってから牧村を見上げた  純平は、眼が赤くなっていた。  「はなびえって何ですか?」   声もかすれている。牧村は  困りながらも優しく微笑み、  純平の隣りに腰を下ろす。
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