Act.1

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    慌てて椅子から腰を上げ、  春物のコートと鞄を持つ。   スーツの内側から長財布を  取り出し、千円札二枚を抜き  取ると青年の手に握らせた。  「釣りは結構です。ご馳走様」   珈琲一杯とオムライスでは  大した釣銭にならないが、少  しだけ格好をつけた。しかし  時間に追われているのは事実  で、青年が戸惑っているのを  横目に店のドアへと向かう。  「あ……お客さんっ」   青年の声が背中にかけられ  たが、ここで止まっては釣銭  を渡されて恥をかく可能性が  ある。それでなくとも、寝ぼ  けた顔を見られているのだか  ら、恥の上乗りだけは避けた  い。そんな大人のプライドで  青年には申し訳ないが聞こえ  てないことにした。   ドアベルを鳴らして外に出  ると、会社のあるビル街に向  かって足早に歩き出した――
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