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――格好つけたのが良くな
かった。
夜の八時に会社を出て、真
っ先に後悔した私は、人の多
い駅前通りを歩いていた。
後悔の理由はただひとつ。
あの時の本を置き忘れてきた
ことだ。
青年から受け取った後、テ
ーブルの上に置いてそのまま
だ。
運が良ければあの青年、も
しくはマスターが気付いて預
かってくれているだろう。運
が悪ければ他の客が持って行
く可能性もある。
悪い方に考えると気分が重
くなった。
本は買い直せば済むが、あ
のブックカバーだけは失いた
くない。私にとってはそれだ
け大切な品なのだ――
「……あっ」
すれ違いざまに小さく驚く
声がしたので、反射的に振り
返り足を止めると、そこにい
たのは――
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