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8帖程の部屋はピンク色で統一されており、アンティーク家具など可愛い物で溢れている。壁と同じ大きさの本棚には数大きくの蝶の標本がずらりと所狭しと、小さな硝子ケースに個別に入れて並べられていた。そして、天井一面にも、直にピンで幾万の蝶が留められており、虫が余程好きでない限りここにいる事さえ躊躇うかもしれない。
「……ここも庫野(くらの)氏のコレクション部屋のひとつですか?」
庫野 頼寛(よりひろ)は、コステミックKURANOという会社を経営する、島では珍しい資産家だった。一等地に建てた8LDKの豪邸に妻と娘の3人で住んでいるのだが、その殆どが庫野氏のコレクション部屋なのである。
「いや、ここは娘の部屋なんだとよ」
部屋の奥側、窓の側に天蓋が吊るされた真っ白なベッドが置かれてある。
「こんな気持ちわるっ……気味が悪い、では無くてぇ……趣味の悪い…部屋に住んでいるんですか」
「お前、それ全て悪口だから、次からは訂正しなくてもいいからな」
「くぅぅ」
「まあ、部屋が部屋なら、遺体もなかなかの〝奇妙〟であると言えるがな」
部屋の中心に、やはりピンク色であったろうソファは夥(おびただ)しい程の血液で変色している。その上にもう殆ど人間の形を呈していない肉の塊が巨大な杭で何箇所も打ち付けられていた。頭部はもげがかり、胴体は内側から破裂した様に空洞になっており、どす黒い液体がその中に溜まっている。腕や脚は跡形も無く、気味悪い蝋人形にも見えた。
「標本でも模しているのでしょうか」
「だろうよ、標本が置かれている部屋だけに。良い趣味な事で」
「どこが、ですか!!」
「この趣味についてこれないようじゃ、金持ちにはなれないな。一生下っ端がお似合いかもな」
口の端だけを上げて嗤いながら、麗子の頭をぐじゃぐじゃと撫で回す。1時間掛けてブローした髪の毛は、もじゃもじゃになりその量を増した。
「これはセクハラですから、ね!」
「いや、セクハラでは無いね。頭の回転の悪い部下の脳味噌に刺激を与えたのさ!そろそろ朝だからいい加減起きろ、とな」
がははと豪快に笑う市涯を尻目に麗子は遺体を覗き込む。臭いの原因は内部に溜まった液体の様で、遺体に近づく程に臭いが強烈になった。指で内側を掻き混ぜると、液体はまるで油の様に指に絡み、ねとっりと指の動きに合わせ波紋を作った。
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