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断面は綺麗なもので、焼け焦げたような跡もなく、火薬の臭いは一切しなかった。勿論、単に強烈な臭いで掻き消されているだけに過ぎないのかもしれないが。腕や脚だろうと判別出来る塊も残ってはいたが、それ以外はミキサーで砕かれた様にミンチ状になって、床一面に血液と共に飛び散っていた。
「連続犯だと思いますか?」
2週間前に1件まだ犯人の捕まっていない残虐な殺人事件があったばかりだった。そちらの害者は女子高校生で、同じく四肢が無残にも引き千切られていた。流石に杭は打ち込まれてはいなかったが、犯行に共通点が無いわけではない。
「可能性が無い、わけではないが……」
不精髭の生えた顎を触りながら、周囲を見渡す。
「ないが?」
市涯は静かに指差す。蝶が張付けられている天井、壁紙、家具、ベッド。
「床はこんなにも汚れているのに、壁や家具には全く付着していないんだな」
床は血液や肉片飛び散り汚れているのに、壁などは元々使い方が良いのか傷や汚れ、埃ひとつさえも落ちておらず、綺麗なままである。
「壁紙を貼り直して後から家具を入れたか、……ここが犯行現場であると思わせる為に床一面にわざと散らしたとも考えられます」
「なんでそんな事をするんだ?」
「さぁ、私は犯人ではないので分かりません」
突然軽快なメロディーが部屋中に大音量で響き渡った。2時間サスペンス劇場のOP曲を携帯電話の着信音に設定しており、音量といい、不謹慎な事極まりない。然も悪びれた様子も見せず、市涯は電話に出る。まわりで作業をしている鑑識や他の警官が迷惑そうな表情で横を通り過ぎているのに気付いていないのか。大声で会話する迷惑男を見据え、早く出世しようと麗子は密かに本日2度目の溜息をついた。
「相良!害者の娘が目を覚ましたようだ。病院に向かうぞ」
そう叫ぶと足早に部屋を出、凄まじい音を立てながら階段を降りて行く。
「ちょっと…待って下さい」
肉片を踏まない様に廊下へ急ぐ。
今夜もきっと徹夜になり寮には戻れないだろう。そう思うと、溜息が自然に零れ落ちていしまう。遷宮島のお弁当は佃煮やら煮物ばかりでそろそろ飽きてきた所だ。差し入れのお弁当だから文句は言えないが、もうそろそろ肉料理が食べたい頃だ。今日のでミンチ肉は遠慮したいが。
大きなショッピングモールより、24時間営業のコンビニがとても恋しくて堪らなかった。
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