第6話 カーニバル

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僕が暴漢に襲われた翌日、クリエイトノアから1人の書き手が消えた。 PNキラー(伝助)である。 僕が負った全身9か所の打撲は、幸いにも軽度のものだった。 そのことは、僕が本気で襲われていなかったことを、表している。 土曜の昼過ぎである。リビングのテーブルで頬杖をつく僕に、志穂さんがコーヒーを運んでくれた。 志穂さんは、そのまま黙って僕の向かいの椅子に座り、僕はノアのマイページに届いた伝言を、再び読み返している。 「どうしてなんだろう‥‥」 ため息のあとに、今日何度かつぶやいた言葉が、また口からこぼれ出た。 伝助の正体は鈴木である。 《先輩ごめんなさい。申し訳無いことをしました。これから警察に自首しようと思います》 昨夜僕を襲ったのは、もちろん鈴木。暗闇で聞いた暴漢の声は、間違いなく鈴木のものだった。 《ストーカープリンスを最初に見つけたのは、俺なんだ。先輩に横取りされて悔しかった》 《千夏さんを幸せにできなかっ先輩を恨んだ。俺なら千夏さんを幸せに出来たのに‥‥》 ストーカープリンス‥‥志穂さん‥‥千夏‥‥ 《仕事でも先輩には全然敵わなかったでしょう? ましてや書くことにおいては、いつもいつも、先輩は僕の自信を奪っていく‥‥》 そうなのだろうか? 快活に笑う鈴木の顔が頭に浮かぶ。 「そうなのだろうか‥‥」 「えっ?」 志穂さんは不安気な表情で、僕の顔を覗き込んでいる。
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