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「20世紀前半の話ですよ、お姉様」
エスプレッソを受け取ると
僕は気にせず胸元のカーネーションを愛でた。
「現にほら、僕以外にもいるはずなのに誰も挿してない」
やぶれかぶれ
浮かないテーブルを見回し呟くと
正面に座った薫が大仰にため息をついた。
「それはそうと昨夜の薫お兄様、とっても素敵でしたよ」
透けるように白い肌に
鳶色の巻毛のバイオリニスト。
「何言ってんだ。揃いも揃ってすぐに姿を消したくせに」
優しいのは見せかけだけ。
「みんな青い顔して座ってんのはそのせいだろ?」
傷口をえぐって
容赦なく塩を塗りつける。
「さあな、悪酔いして何も覚えちゃいない」
「僕もだよ」
誰にともなく言うと運悪く
青い顔した征司と九条さんは
同じタイミングで水差しに手を伸ばす。
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