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「ゴシップなら間に合ってる。よそへ行け」
愛想なしに撥ねつける
双子の兄を黙らせるように
「あら、聞きたいわ。何の話」
貴恵は悪戯な笑顔で身を乗り出した。
「それがですね――」
愛しの女王様に認められ
拓海は僕らの席に割り込むと、嬉々として語りだす。
「世界的に有名な宝石商のロデス・ピエールがこの船に乗船してるのはご存知ですか?」
「いいえ、知らないわ。彼がどうかして?」
「昨夜、持ってきていたネックレスが盗まれたんですって」
「ネックレス?」
「ええ。最高級のイエローダイヤだそうです」
「カナリー・イエローね。犯人は私かも」
「貴恵さんたら」
夢見がちな瞳で指を組み、貴恵は微笑む。
「それにしても船の上で泥棒とはぶっそうなお話ですね」
そんなご令嬢に給仕しながら
中川が頭を振る。
「そうよね。犯人は必ずこの中にいるんだもの。意外と近くで朝食をとってたりして」
貴恵は声をひそめ辺りを見回すと
隣に座る僕に耳打ちする。
「くだらない小説の読み過ぎですよ、お姉様」
冷めた顔したお兄様方。
こっちは――それどころじゃないんだ。
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