episode 120  リトル・クーデター

6/19
1048人が本棚に入れています
本棚に追加
/367ページ
「ゴシップなら間に合ってる。よそへ行け」  愛想なしに撥ねつける 双子の兄を黙らせるように 「あら、聞きたいわ。何の話」  貴恵は悪戯な笑顔で身を乗り出した。 「それがですね――」 愛しの女王様に認められ 拓海は僕らの席に割り込むと、嬉々として語りだす。  「世界的に有名な宝石商のロデス・ピエールがこの船に乗船してるのはご存知ですか?」 「いいえ、知らないわ。彼がどうかして?」 「昨夜、持ってきていたネックレスが盗まれたんですって」 「ネックレス?」 「ええ。最高級のイエローダイヤだそうです」 「カナリー・イエローね。犯人は私かも」  「貴恵さんたら」 夢見がちな瞳で指を組み、貴恵は微笑む。 「それにしても船の上で泥棒とはぶっそうなお話ですね」 そんなご令嬢に給仕しながら 中川が頭を振る。 「そうよね。犯人は必ずこの中にいるんだもの。意外と近くで朝食をとってたりして」 貴恵は声をひそめ辺りを見回すと 隣に座る僕に耳打ちする。 「くだらない小説の読み過ぎですよ、お姉様」  冷めた顔したお兄様方。 こっちは――それどころじゃないんだ。
/367ページ

最初のコメントを投稿しよう!