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「彼らが捜してくれないから、拗ねてるんだ?」
「――そんなんじゃないよ」
『和樹――俺たちの間に起こった事
すべては戯れだったんだ』
あの悲惨な夜から幾晩
『征司くんを選んだんだね』
悪い頭をひねって考えたけど
納得のいく答えなんて出ない。
だから帰りたくても
――帰れやしない。
「まあいいさ。僕は君が好きだし。飽きるまでいるといい」
シャワーを戻し蛇口を閉めると
「さ、できたよ」
椎名さんは僕の身体を引き起こす。
「――ん」
染めあげたばかりの
毛先から滴る水滴は――。
首筋を伝い、いまだ僕の胸元で輝く王子様からの贈り物を輝かせる。
「そんな切ない顔するなよ。君には似合わないぜ?」
背後から髪を拭いてくれる。
優しい手とふわふわのバスタオル。
「分かってる。いいよ、自分でやるから――」
忘れたいのに
何度もこうして愛されたこと
否が応にも思い出してしまう。
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