少年

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旭の言う“あいつ”が誰だか弘喜には知る術がない。 唯一、真実を知っている弘喜の母親も何も語らない。 自分が誰の子供かわからないという不安、恐怖。 信じ切っていた父親が、自分の父親じゃないかもしれないと言う怖さは誰にも解らないだろう。 母親の元に引き取られたのは、至極当然の事だった。 弘喜を自分の子供だと思えない旭が、引き取る筈がない。 そして年を重ね、意味を段々と理解し始めた弘喜は、一度だけ旭がぼやく様に呟いた言葉を思い出した。 「…俺が、あんな鏡に聞かなければ…」 鏡…? そこで、初めて弘喜は“鏡”と言うフレーズを聞いた。 だけど、その謎は小学生に入ったばかりの弘喜に解明できるわけもなく、成長するにつれてすっかり忘れ去っていたのだ。 18歳になって、この洋館の鏡の噂を知って、“鏡”と言う言葉を思い出した。 そして、何故かそこの鏡が旭の言っていた鏡だと確信する。 その確信は見事、的中していたのだけれど。 『………』 「鏡、聞きたい事がある」 弘喜はそう言ってから、どうにか立ち上がると鏡の前へ立つ。 ――――――鏡の主が微笑んだ様に見えた。
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