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康代ちゃんは、カバンをさぐって私に手を伸ばした。
「これ、この前のヘアピン、返してなかったでしょ。」
康代ちゃんが花のついたヘアピンを渡した。
「もらえないよ。」
「もらってよ。お守りだと思って。」
康代ちゃんが、私の手を取ってヘアピンを持たせた。
水色の花のヘアピンは、つやつやのきれいなものだった。
「工藤さん、わたしやっぱり工藤さんのこと好き。」
ぽかんとした私を置いて、康代ちゃんは帰ってしまった。
ヘアピンをもらったことを話したら、お祖父ちゃんたちはまた頭を下げにいってしまうだろうから、明日康代ちゃんに会ったら返そうって思って持って帰った。
翌日学校に行くと康代ちゃんは休んでいた。体調を崩したらしい。結局ヘアピンは返せなかったけど、その日も掃除に行ったら沢城が久しぶりに私に向かって言った。
「固まらないで草ぬきしてよ。工藤さんはあっちでやって。」
私だけに、神社の裏の茂みを指さして言った。
文句を言うのも面倒くさくて私は神社の裏に回った。そこはひんやりしていて、周りの声も聞こえないけれどしずかで落ち着く場所だった。細い道が山の奥に繋がって言うのが見えた。
少し離れた場所にある小高い山に赤い鳥居が見える。お祖父ちゃんにマムシが出るから入っちゃいけないと言われた神社だ。
ここから見えるってことはかなりの大きさだ。
ともかく草ぬきをしていると、何か視線を感じた。振り返るけど誰もいない。私は周りを見渡した。視線を感じる場所はどこだろう。茂みの中みたいだ。私はそっと中を覗いた。茂みの奥に小さな細い道があって、そこを通ると少し開けた場所に出た。トラックも停まっている。
男の人たちがいた。
「今年はあげるか。」
「三葉に男の子が産まれんと、どうしようもない。」
康代ちゃんのお祖父ちゃんと同じ歳くらいの人たちだった。タバコを吸いながら話している。
「元康君ときのは済んだんか? ちゃんと上げんとえらいことになる。」
「ああ、ありゃ元康君が日昇る前に上げなおした。一つ半なら山神様も怒らんだろう。」
よく見るとトラックの上には何かを積んでいた。大きな檻のようなもので、布がかけてある。時々そこが震えて、中身が動いているようだった。
男の人たちがタバコを消して、去ると私はなんとなくそこに近づいた。トラックで見えなかったけど真っ黒に焦げた跡が残っていた。
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