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土間から上がった畳の上は泥だらけだった。廊下もざらざらとした砂の感触がして、障子は破れて内側から新聞紙を貼ってふさいでいるのが見える。
「工藤さんはこの屋敷の噂聞いている? 」
「あんまり知らない。夜になると、変な声が聞こえるとかしか。」
康代ちゃんはどんどん奥に入る。そして立ち止まった。私も見上げた。大きな丸い塊があった。それは巨大な頭に見えた。丸い目と結んだ口、丸い髪の毛のない頭。口をがばっと開ければ私と康代ちゃん、二人ともばりばり食べられそうだ。
私は思わず康代ちゃんの上着を握っていた。
見つけちゃいけないものを見つけてしまったような気分で、わけがわからないのに怖かった。
「帰ろう。」
私は康代ちゃんを見た。康代ちゃんは、じっとそれを見ていた。
「出ようよ」
康代ちゃんは私の手を取った。二人で外に出るまで、後ろから何かが襲ってくるんじゃないかって、足が震えていた。数分くらいしかたっていないのに、外に出た瞬間が何日ぶりに生還したような気持ちになって、泣きそうなほど嬉しかった。
「ね、工藤さん。今日見たもののこと、誰にも内緒だよ。
そういって康代ちゃんは小指を出した。
私は康代ちゃんと小指をつないで、指切りをした。康代ちゃんが笑った顔は今まで見たことのない笑顔だった。嫌われ者の私が、人気者の康代ちゃんと秘密を作った。さっきまでの恐怖が無くなってしまうくらい嬉しかった。
でもその日帰ってから、カバンにつけていたお守りをなくしていたことに気づいた。お祖母ちゃんが持たせてくれた交通安全のお守りで、この集落にはほとんど車なんか通らないから交通安全のお守りなんかいらないと思うんだけどお祖母ちゃんが持たせてくれたものだから明日朝一番に探しに行った。
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