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いつも一緒に帰る子たちを置いて、康代ちゃんはすたすた歩く。
「もうすぐ夏祭りの準備しないとね。あ、工藤さん夏祭りって聞いてる? 」
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんから。」
私が来たのは今年の春からだけど、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが夏祭りの準備をしないとって朝話していたのを聞いた。
「でも昔からここに住んでる子しか参加できないって。」
「花笠付ける子はそうだけど、みんな来ていいんだよ。お父さんもお祖父ちゃんも準備で今日でちゃってるんだ。」
康代ちゃんの家の話は、ここに来た時一番に聞いた。この集落で百年前から住んでいる、由緒ある家がらのお嬢様だって失礼のないようにって。皆が大事にしているから、学校でも気を付けろって。だから私は、康代ちゃんのことは少し怖いと思っていた。
「でね、よそから美味しいお菓子もらったから、工藤さん食べに来てよ。お父さんもお祖父ちゃんも甘いものあんまり食べないのに、たくさん持って帰るの。お手伝いさんも太っちゃうって。」
康代ちゃんがそんなふうに誘ってくれたのも初めてだった。
だから嬉しくて、家について行った。
康代ちゃんの家はとても広かった。二階建ての日本家屋なのに、奥のほうには洋風の建物がある。不思議な建物だなっていつも思ってたから見ていると、康代ちゃんが言った。
「あれは物置。」
物置にしては大きい。
康代ちゃんは縁側が見える部屋に案内してくれて、チーズケーキを出してくれた。久しぶりに食べた、甘酸っぱい美味しいケーキに夢中になっていると、どんどんっという足音がした。
縁側から、大柄な男の人が来るのが見えた。その人は私を睨むように見た。
「お帰りお父さん。」
康代ちゃんが言った。私はフォークを握ったまま、固まっていた。その人は左目に眼帯を付けていた。
「友達の工藤さん。」
男の人が浅く頭を下げて、私もぺこりとつられてお辞儀をした。男の人はそのまま歩いて行ってしまった。
「ごめんね。お祭りが近くなると寝る暇ないから、眠くて目つき悪いの。」
「そんなこと、ないよ。私も勝手にお邪魔してるし。」
康代ちゃんは私のカップに紅茶を淹れた。
そうすると、今度は賑やかな声がしてきた。康代ちゃんはぱっと立ち上がって覗きに行くと、大柄なお爺さんが歩いてきた。
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