お化け屋敷の達磨

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「康代ちゃんち、大変だよね。」 「そうそう、達磨さん上げなきゃいけないもんね。」  私は気になっていたので尋ねてみた。 「達磨さんって、なに? 」 「達磨さんは三葉さんちと曾我さんちがあげるんだよ。お祭りが終わってから。時期が重なるから両方の準備で大変なんだって。」 この集落で大きな屋敷を持つ家の名前だった。 「達磨さん上げるときは家じゅうをお正月みたいにきれいにして、山神様が家にきてもいいようにするんだって。あんまり家まで来ることはないけど、来た時に家が汚いと山神様が怒っちゃうから。」 「だから達磨さんを上げられる家は家の建て方も家具を置く場所もきちんとしなければいけないから大変なんだって。」  彼女たちはすらすら話してくれた。それから、彼女たちはそっと言った。 「それでね、あの、お化け屋敷。達磨さんを上げるの失敗した家なんだって。」  私は康代ちゃんと一緒に入った家を思い出した。  あそこにあった巨大な頭。あれは達磨だった。 「達磨さんを上げるのに失敗した家は、山神様に祟られるから誰も入っちゃ行けないの。」  そんな危険な場所なら入らなくて当然だ。でも、康代ちゃんがそんなことを知らないとは思えない。 「ねぇ、その中には何を入れるの? 生き物とか、いれるの? 」  そういうとみんな黙った。  時間が停まったみたいに、私だけ生きてるみたいに、誰も動かなかった。一人がそっと目線を動かして、もう一人もそれに目線を返す。 「……工藤さん、ここから引っ越したりしない? 」  ぽつりと一人が言った。  その眼が真剣で、なんでそんなこと聞くのって聞けなかった。 「私、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんしかいないから、ずっとここにいるよ。」 そういうと、皆じゃあってぽつぽつ口を開いた。 「これ、絶対誰にも言っちゃいけないの。」 「よその人には絶対、絶対言っちゃいけないの。」  そう言って声を潜めて言った。 「昔はね、入れてたみたい。でもね、今はそんなことしないって。絶対。」  私の背中がぞくっとした。昨日聞いた、不気味な泣き声が耳の奥によみがえる。先生が私たちを呼んで、掃除は終わって帰り支度をする。最後にもう一度皆振り返って言った。 「ね、工藤さん絶対ここから出て行っちゃだめだよ。山神様に祟られちゃうから。」  その眼はからかっているふうじゃなくて、私はうなづくしかなかった。  
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