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「はぁはぁ・・・はぁ・・・。」
綺麗な満月が覗く木々の合間を、黒い髪の少年が走っていた。
否、走っていると認識しているのは当人のみで、端から見れば、歩いているのと変わりない。
頻繁に顧み、何かから必死に逃げているようだ。
少年から滴る液体が、草花を伝い大地へと還る。
丁度膝まである雑草の影に隠れた木の根に足を取られ、少年は無惨に転ぶ。
偶然なのか、そこは、土肌の覗く開けた広場だった。
動きを止めれば死ぬ、とでも言いたげに、少年は至極滑稽な様で這いずる。
広場の中程まで着くと、突然、少年の転げた木の根の辺りから、憎々しい声が発せられる。
「もう、おしまいですか?」
どこにそんな力が残っていたのか、その声を耳にした少年は、瞬時に仰向けになり体を起こして目を剥く。
そして何かを悟ったかのように、頬を地に付ける。
時が止まったかのような静寂がしばらく続くと、草花を踏み潰し、大地を踏み締める音が近づいてくる。
視界の端に、先の尖った黒い靴が侵入して止まった。
少年の疲労と絶望は限界を越え、意識は深い闇へと落ちていった。
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