編者の言葉 熊川直孝

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 江戸川乱歩賞『落選』全集刊行のことば  1954年、江戸川乱歩先生が還暦記念に日本探偵作家クラブ(社団法人日本推理作家協会の前身)に寄付した100万円を基金として、創設されたのが江戸川乱歩賞である。  当初、当該年度にミステリー界で顕著な業績を示した人物・団体に贈る趣旨で、たまたま第2回までは創作以外の業績に贈賞された。  その為、第1回江戸川乱歩賞を評論「探偵小説辞典」で受賞した中島河太郎氏は、ご自身が選ばれるとは露ほども思わず、大層戸惑ったそうだ。  第2回は早川書房が、「『ポケット・ミステリ』の出版」で受賞。  第3回からは「やはり創作小説であろう」と方針を改め、毎年、既成・新人作家を問わず書下し推理長編を公募して、その最優秀作に授賞し、講談社より出版する現在の形態が確立された。  推理界への長編登竜門として、長らく唯一無二の存在だったが、類似の賞が各出版社等によって設けられた現今でも、依然ひときわ高い評価を得ていると言っても、過言ではないだろう。    歴代の受賞作は、いずれも俊秀のデビュー作あるいは出世作となった長篇で、これらを通覧することは、そのまま日本推理小説史の重要な一側面を窺うことにほかならない。 ……が、このエッセイ 「江戸川乱歩賞『落選』全集」 では、受賞作ではなく【落選作】にスポットを当て、その作品を読み解き、深読みし、受賞作と比べることで、何が駄目だったのか? をお節介にも分析することで、日本ミステリー小説界の歴史を考えるという崇高な理念に基づいていると言っても過言ではない。  いや、言い過ぎた。 「捨てる〈紙〉あれば拾う〈紙〉あり」(逢坂剛氏)  あわよくば「江戸川乱歩賞をゲットしませう!」という希望に燃え、原稿用紙を講談社に送付したが、惜しくも授賞を逃した最終候補作もあれば、かすってもいねえ一次落ち作品までも網羅している。  収録作品は、乱歩賞が公募となった第3回(1957年)から、記念すべき第60回(2014年)までの内、何らかの形で書籍化された・原稿が入手出来た、乱歩賞落選50作品以上を厳選(?)した。  随時作品を追加・更新予定である。  大方のご支援と生温かく見守る視線を請う。  2014年5月12日、下村敦史氏の第60回江戸川乱歩賞受賞のニュースを聞きながら。  熊川直孝
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