1231.重役

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 自分でいうのも何だが、私は昔から才能というのに恵まれていた。勉強、スポーツ、芸術その他、諸々。全ての分野において、最高の成績を残せる自身がある。現にこうして、私は今、若くして大企業の重役に就いている。あと少しすれば、社長就任も確実であった。  しかし、時折、恵まれた自分の人生にジレンマを覚えることがある。原因は分かっていた。どんなに才能に恵まれていようとも、歩める道は常に一つなのだ。どんなに、他の仕事をしたいと思っても、今している仕事で手一杯なのだ。他に自分がいれば、別の仕事、やりたいことができたというのに。人生とは実にもどかしい。 「もし、お兄さん」  夜道を歩いていたら、突然、声をかけられた。振り向くと、街灯の下に易者が一人、席を構え座っているではないか。 「私に何か御用ですか?」  道ばたの易者というものは初めてみた。こんな時間に、易者とは怪しく思えるのだが、何故か私は彼は危険な人物ではないと思ってしまう。易者から感じられる独特の雰囲気ではない。昔、どこかで遭ったことがあるような懐かしい感じがしたからだ。 「お兄さん。あなた、今の人生に悩みを懐いているね」 「分かりますか?」 「分かりますとも、高そうな服を着ているのに、浮かない顔。人生に満足している人なら、それなりの顔つきをしています。私でよろしければ、相談にのりますが」  怪しげな雰囲気を漂わせる易者は不敵な笑みを浮かべ私に問う。 「残念ですが。私の悩みは普通とは違います。あなたが、仮に高名な易者だとしても、私の悩みばかりは解決のしようが・・・」 「今の人生を変えたいと思いませんか?」  易者の言葉に私の心は揺れ動く。私はまだ自分の悩みを口にしていない。いくら浮かない顔つきをしていたからと言って、人生そのものを変えるなど安易に出る言葉ではない。  まるで、私の心を見透かしているようだ。 「人生を変えるって、今から人生を変えたところで・・・」
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