男にだって二言くらいあるさ。

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夜、みんなが寝静まった時間。 虫達の合唱が開けられた窓から聞こえてくる。 そんな何処か気持ち良くなる音色に耳を澄ませ、少女は窓の外を眺めていた。 眺めているといっても少女の目は開かれておらず、意識を外に向けているだけなのだが…。 ネ「今日は楽しかったなぁ」 少女の呟きは闇に溶けていき、誰の耳にも届かない。 ネ「久しぶりにあんなに話し込んじゃった」 しかし、少女は気にせず窓の外へ呟き続ける。 ネ「……クロちゃん、暖っかったなー」 魔法に愛され魔力に嫌われた少女は、一日の終わりに窓際でその日を振り返る事が日課となっていた。 ネ「せっかく、仲良く慣れた人達も出来たのに」 少女は自分にかけていた魔法を”全て”解いた。 途端に広がるのは右も左もわからない世界。そしてーーー ネ「もう、殆ど聞こえないや」 先ほどまでの虫の音色も、自分の声すらもどこか遠くに聞こえる。 魔力五感損失症が発病して二年目、少女は光の次に音を失おうとしていた。 普段から魔法により自分の周りを見て、自分の聴力を底上げしている少女。 しかし、聴力の方は完全に聞こえなくなると打つ手がなくなってしまう。 そして少女が他人との会話が出来るのも、残すところ数ヶ月だと思われた。 ネ「なんで僕なんだろ…」 目元に浮かんだ涙を拭い、自問自答するが答えは返ってこない。 しいて言えば運が無かった。ただそれだけなのだ。
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